プライバシー確保のための植栽

植栽というとどのように綺麗に「見せる」かについて考えてしまいますが、実は「隠す」という役割においても重要な役目を持っています。プライバシーを確保するために、植栽にはどのような種類があり、何に気をつけるべきかについて紹介していきます。

■植栽は「見せる」だけではなく、「隠す」役割も!

住宅の計画を行う際、建物本体の「間取り」に気を取られがちですが、プライバシーが確保された、安心できる住宅を実現するためには、建物の「外」の計画を同時に考えることが重要です。

門から玄関までのアプローチや、隣家の窓の位置など、そこで生活する様子をイメージしながら、建物内部(平面計画)と外部(外構計画)の調整を行い、敷地のどこに建物を配置するかを決定します。

そして、仕上げに植栽計画を上手くまとめることで、1ランク上の美しく快適な居住空間を得ることができるのです。

草木の配置が緻密に計算された庭園は、とても美しく心安らぐものですが、住宅敷地における植栽計画は、「見せる」ことに限らず、「隠す」ことも大切な役割です。

防犯性を考えると、塀や垣根が高いほうが良いと感じるかも知れませんが、これは見通しが悪く逆効果。実は「塀が低くて見通しの良い、死角がない家」のほうが安全なのです。

とは言え、あまりに見通しが良すぎるのも落ち着きません。そこで、植栽の「隠す」働きが役に立ちます。
場所ごとに適切な樹種を選ぶことで「隠し方」をコントロールすることができるのです。

■木の高さにより分類も役割も変わる。

プライバシー確保を目的とした植栽には、通常「常緑樹」が用いられます。一方、「落葉樹」は、夏の強い陽射しを遮り、冬には落葉して内部空間に柔らかな陽射しを届けてくれます。

樹木を高さで分類する場合、一般的には4m前後のものを「高木」と呼び、シンボルツリーとして使われたりします(シマトネリコ、ハナミズキ、ヒメシャラ など)。

高さ2m前後のものは「中木」に分類されます。ちょうど人間の視線の高さに枝葉が付くものが多いことから、中木はプライバシー確保を目的とした植栽に用いられることも多いです(ツバキ・サザンカ・ゴールドクレスト など)。

「低木」は、樹高1m未満のものを指し、和室など低い目線からの鑑賞、また逆に低い目線からの視線を遮ることにも有効だと言えます(ツツジ・ユキヤナギ など)。

さらに低く地面を覆うものを「地被植物」といい、草花の育ちにくい日陰の緑化や、花壇・通路の縁取りなどに使われます(リュウノヒゲ・タマリュウ・クマザサ など)。

この他にも、樹形や色合い、季節感など、樹種それぞれに特徴があり、これらを上手く組み合わせることで、「隠す」機能に加え、奥行きや遠近感を演出するなど様々な表現を行うことができます。

ただし、植物は生き物です。健康でなければ、その役割を果たせません。樹種ごとに異なる「耐陰性(日陰での強さ)」を考慮し、植え付ける場所の日照条件・環境について十分に注意が必要です。

また、樹種によって植え付けに適した時期が異なるため、建物の工事スケジュールを考慮した植栽計画を立てる必要があります。

植栽は、「建築」と「まち」をつなぐ重要な役割を担っています。計算された植栽計画により、家もまちも美しくなります。
建築設計者の多くは、その重要性を十分に認識していますが、植栽計画は、とても奥が深く、難しい世界でもあるのです。

Author: iehome